はじめに
2024年5月30日にリリースされたゲーム、『ライドカメンズ』。仮面ライダーの長い歴史という糸で編まれた全く新しい物語と、彗星のごとく現れた魅力的なキャラクターたち。その一人が、浄です。
2024年5月25日、Twitterで「左手薬指」がトレンド入りします。その発端となったのが、ライドカメンズ公式アカウントのこちらのツイートです。
◤変身アニメーション🎬◢
— ライドカメンズ【公式】 (@ride_kamens) 2024年5月25日
本日17:00より
リリースまでのカウントダウンとして
クラスごとに変身アニメーションフルver.をチラ見せ公開‼
それに先駆け、変身時に仮面ライダーたちがそれぞれ【カオスリング】をどの指に装着するかを公開します🖐️
お楽しみに👀
#カメンズ https://t.co/vUtKb6QeDN pic.twitter.com/SLQWH8g0gm
変身アイテムである指輪を左手薬指に着ける浄。「すべての女性を愛する紳士」という胡散臭い設定と、モチーフとなったキャラクターの所業からかねてより怪しまれていた浄ですが、この情報はファンを震撼させました。
ものすごく怪しくて、ありえないほどセクシー。彼は一体どんな人物なのでしょうか?
今回は、モチーフとなった仮面ライダーを解説しつつ、浄というキャラクターを「嘘」の観点から読み解きます。彼は悪辣なヴィランか、それとも正義のために戦うダークヒーローか。彼の真実に迫ろうとすることで、その魅力を皆さんに少しでもお伝えできましたら幸いです。
※この記事では、本編を多くの方に楽しんでいただけるように、メインストーリーの情報に触れない形で考察を進めます。一方で、調査エピソード、サポートエピソード、キャラエピソード、親愛エピソード1話までのネタバレを含みます。
※『仮面ライダービルド』の「エボルト」と「氷室幻徳」というキャラクターについて言及します。作品の根幹に関わる情報は可能な限り避けましたが、序盤から中盤にかけてのネタバレを含みます。
この記事でご紹介するのはあくまで個人の解釈です。ご了承の上で楽しんでいただけましたら幸いです。
浄ってどんな人?
浄はラウンジ『ウィズダム』で働く青年です。「全ての女性を愛する紳士」と紹介されているように、オンでもオフでも女性と共に時間を過ごすことをこよなく愛しています。浄のキーワードは「嘘」です。微笑を湛えた表情は本心を悟らせず、彼の言動は常に他者を煙に巻くような掴みどころのない人物です。
変身時には左手薬指にカオスリングを装着します。それだけでなく、変身アニメーションではその指輪に口づけをしています。ライドカメンズのメインキャラクターの中で最年長の浄は、とにかくセクシーな雰囲気を纏っています。この「セクシー」という印象もまた、仮面ライダーシリーズのあるキャラクターと深い繋がりを持っています。
浄のモチーフ
仮面ライダー浄のデザインは、『仮面ライダービルド』に登場する「ブラッドスターク」をオマージュしたものと思われます。一方で、蝙蝠のような翼は、同じく『仮面ライダービルド』の「ナイトローグ」を想起させます。
※リンク先の文章は『仮面ライダービルド』のネタバレを含みます。
ブラッドスタークとナイトローグの共通点は、トランスチームガンで変身することと、悪の組織・ファウストに所属していることです。仮面ライダー浄が操る煙は、トランスチームガンの蒸気から着想を得ていると考えられます。
ブラッドスタークは、スーツアクターである岡田和也さんと声優の金尾哲夫さんの名演に洗練されたデザインが相まって、大人の色気が香り立つキャラクターです。そしてナイトローグの変身者である氷室幻徳は、オールバックがよく似合う美青年で、1話では女性に声をかける場面もあります。浄の妖しい立ち振る舞いやオールバックの髪型、「女性を愛する紳士」という設定もまた、もしかしたらこの2人の文脈を受け継いでいるのかもしれません。
(2024年6月22日追記 女性が好きで嘘を巧みに操る、という一面は『仮面ライダー電王』のウラタロスのオマージュでもあると思います。)
明日の午前9時はビルド第7話!
— 仮面ライダービルド (@toei_riderBUILD) 2017年10月14日
ナイトローグの初"蒸血"を見逃すな!!https://t.co/Vpn3e1kViI#仮面ライダービルド#ナイトローグの正体#蒸血 pic.twitter.com/lOqqXrXKZQ
コブラのブラッドスタークと蝙蝠のナイトローグ。浄のデザインの元となったこの二つの存在は、近いようで真逆の存在と言うこともできます。ブラッドスタークの変身者であるエボルトは悪役として極悪非道の限りを尽くし、視聴者を含めた全てを欺きます。一方、ナイトローグの変身者である氷室幻徳は、ナイトローグとして倒された後、仮面ライダーローグとして立ち上がり、大義のために戦います。ヴィランとダークヒーロー。この二つの要素は、浄を読み解く上で一つの重要な鍵になっていると思います。
ヴィランとダークヒーロー
ここでは、星4の浄の調査エピソード「仮面の騎士の真実と秘密」のYELLOWとGREENの二つの分岐を比べることで、浄の二つの顔に迫ります。このエピソードでは、エージェントがラウンジ「ウィズダム」で出会った女性、マダム・レベッカがカオスストーンを持っていることから話が展開していきます。
YELLOWでは、浄はカオスストーンを回収するために情報をカオスイズムに流した、とエージェントに明かします。「仮面の騎士」がマダム・レベッカを守った一方で、その場から逃げ出した「浄」は嫌われてしまいます。厄介な客であるマダム・レベッカを追い出すためにわざと嫌われ役を演じたのではないか、とエージェントに尋ねられた浄はこう答えます。
「……その真実は、君の想像にお任せするよ。」
一方、GREENのエピソードでは、浄はマダム・レベッカに許される代わりに、「仮面の騎士」を探すよう命じられます。「仮面の騎士」は浄であるという真実を打ち明けなくていいのか、とエージェントに問われた浄は、自分の仕事はレディに夢を見させてあげることだと話します。
「これは俺と君だけの秘密だ。引き続き、内緒にできるかな?」
YELLOWとGREENのエピソードは、それぞれ浄のヴィランとダークヒーローとしての側面を描き出しています。策略によってカオスストーンを回収し、面倒な客を追い払うという二つの目的を果たしてみせたYELLOWの浄。自らの功績を隠してでもレディの夢を守ったGREENの浄。打算的な側面と利他的な側面という二つの顔を持つ浄は、どちらが本当の顔なのでしょうか。
浄とレディ
浄のキャラエピソードでは、浄がレディに対してどのように接しているかを知ることができます。颯と会話する「マメな男」では、浄が1人ひとりのレディに丁寧に向き合っており、普段と違う様子の女性がいれば気にかけてさえいることがわかります。
(このレディが昼間から連絡してくるのは珍しいな。もしかして何かあったのか?)
レディに対するスタンスが最も顕著に表れているエピソードが、静流と対立する「レディを巡って」です。自暴自棄になった女性を心配する浄は、酒を飲み続ける彼女を止めない静流に忠告をします。
(……やはり彼は軽薄だと言わざるを得ないな。このままでは、あのレディは幸せにはなれないじゃないか)
このときの浄の言動は、後に静流が指摘したように、打算ではなく感情で動いているように見えます。自分の利害に関係なくレディを気遣う浄の姿からは、信念のようなものさえ感じさせます。一見すると軽薄に見える浄の言動が、真摯な親切心から来ていることは彼を理解する上で重要ではないかと思います。
キャラエピソードを踏まえて「仮面の騎士の真実と秘密」を読み返すと、浄の新たな側面が見えてきます。彼はYELLOWでもGREENでも、自分が他者からネガティブな感情を持たれることを受け入れています。狡猾だと思われてもいい。情けないと思われてもいい。見返りを求めず、「嫌われ役」を演じる彼の姿は、「西のファントム」として孤独に戦っていた氷室幻徳を思い起こさせます。
浄は一人ひとりのレディを大切にする一方で、時に、彼女たちにとっての「特別」になることを避けているように見えます。一人の女性を幸せにするという生き方ではなく、生涯を賭してレディたちの平和を守るために戦うことを、彼は選んだのかもしれません。左手薬指に着けられたカオスリングは、仮面ライダーという使命に身を捧げるという浄の覚悟の表れなのでしょうか。
浄が隠したいもの
人心掌握術に長ける浄ですが、そんな彼にもエージェントの前で何かを言いよどむ場面があります。そのエピソードが星3の調査ストーリー「スイーツはスマートに」です。私服の浄のカードの裏面には、非常に大きなパンケーキをオーダーする浄の姿が描かれています。
こんなにも大きなパンケーキを自ら頼んでおきながら、浄は甘いものが好きなのは女性との会話で役に立つから、といった口実を並べ立てます。エージェントに、浄自身が本当は甘いものが好きではないか、と指摘されると、浄は珍しく答えに窮する様子を見せます。
「それは――」
もう一つ、彼の趣味である眼鏡について語られるキャラエピソード「譲れないこだわり」があります。ラウンジを訪れた女性の前で眼鏡について熱く語る浄は、熱弁する浄に女性がついてきていない様子を見て、話すことをやめてしまいます。
(……やれやれ、引かれてしまうところだったな。眼鏡の話は慎重にしなければ)
この二つのエピソードから浮かび上がってくるのは、素顔の自分をさらけ出すことを恐れている浄の姿です。
すると、浄の対人関係にもある仮説が立てられます。子供の扱いが苦手なのは、小手先の話術で操ることができず、ありのままの自分を暴かれてしまうから。皇紀が浄を敵視しているのは、骨格と肉質から人間性を汲み取ることができる彼だからこそ浄の嘘に本能的に気づいているから。
素顔を晒すことを徹底的に避ける浄。そんな彼は、「仮面ライダー浄」としての顔も知っているエージェントに、どのように接しているのでしょうか。
エージェントへの思い
浄が本当の自分を見せないために嘘をついているとすれば、エージェントに対する彼の言動も深い意味を持ち始めます。浄は様々な場面でエージェントの無防備さをからかったり、素直なエージェントを心の中で案じたりします。
「もし俺が悪人だったとしたら……。花を摘むよりも簡単に、君を攫うことができるだろうからね。」
自分に背を向けるエージェントの口を塞ぎ、驚かせる浄。店に1人でいる時間帯を話すエージェントに、他者に情報を軽々しく教えてはならないと告げる浄。「悪い大人」としてエージェントをからかっているような浄の言動は、裏を返せば、エージェントに忠告を与えているとも読み取れます。同時に、彼は「自分を信頼するな」とエージェントに釘を刺しているようにも見えます。
「困った相手に出会ったときは俺を頼るといい。君のためなら、誰であろうと口説き落としてあげるよ。」
浄の言動は一見するとエージェントを翻弄したいかのようですが、冗談めかして伝える言葉の中には、エージェントのために力を尽くしたいという献身が表れています。以上のことから考えられるのは、浄は本当の気持ちを話したいときにこそ嘘をついているということです。
(ひたむきで素直なところは美点だが……俺のようなやつに足元をすくわれないようにしてくれよ?)
キャラエピソード「今はひたむきに」では、エージェントの素直さを評価しつつも、自分のような人間に利用されないでほしい、という気持ちを抱いていることがモノローグで語られます。
バトルのボイスからは自身の能力の高さの自負が伺える浄ですが、「俺のようなやつ」という語り口には、「自分は悪い人間である」という自己認識が表れています。キャラエピソード「口説きの話術」でも、「今一番言ってほしいこと」として、エージェントから「すごい」よりも「怖い」と言われたときの方が、喜ぶような様子を見せます。
自分の能力には自信があるが、他のライダーたちやエージェントのようなまっすぐさを自分は持ち合わせていない。だからこそ「悪い大人」として狡猾な手段を使い、憎まれてでも、彼らにはできない形でダークヒーローであり続ける。彼らにとっての平和を、自分なりの方法で守りたいと思っている。
巧みな嘘とは裏腹に、もしかしたら浄は不器用な優しさを抱えた人物なのかもしれません。
浄の素顔
人間の感情は顔の左半分に出やすい、という言説があります。ところが、浄の表情を見ると、立ち絵や星4のイラストでは、左半分に穏やかな表情を浮かべ、右半分に違う感情が表れていることが多々あります。
そして、仮面ライダー浄に変身した時に隠しているのが顔の左半分です。
これについて、様々な解釈をすることができます。普段から自身の感情をコントロールしている浄。そんな彼でも、仮面ライダー浄に変身するときには本心を隠したいと感じている。仮面ライダー浄が戦うとき、煙によって自分の戦い方を見せないのもまた、変身によって現れる本当の自分への恐れがあるのかもしれません。
あるいは、日常で「全てのレディを愛する紳士」や「悪い大人」という仮面を被り続ける彼にとって、自分の本心は彼自身にも分からなくなってしまったのかもしれません。
しかしながら、浄の思いがけないところで、彼は慕われています。例えば、地区エピソード「接客の師弟関係」で、颯は浄について、接客を教えてくれた師匠であると嬉しそうに話します。
また、親愛エピソード「甘い生活」では、虫歯になってしまった浄のために、エージェントとレオンが奮闘します。このエピソードでは、甘いものが大好きであるという浄の素顔をエージェントが理解しており、二人の間に信頼関係が築かれていることが分かります。ユーモラスなエピソードですが、親愛レベルを高めたエージェントだからこそ、彼の真実に一歩近づけるのかもしれません。
浄の不器用な優しさは、周囲の人にはきっと伝わっているのではないでしょうか。
おわりに
「嘘を吐く時には、ほんの少しの真実を混ぜるだけでもっともらしく聞こえる。」
わたしは浄を「読まれることを待っている本」のようなキャラクターだと感じています。浄の何を嘘として捉え、何を真実として信じるかはプレイヤーに託されています。見かけの背表紙だけで浄を判断することもできれば、本を手に取り、自分なりに読み進めることで浄の真実に迫ることもできます。嘘に隠された一握りの真実を、見つけることができるかもしれません。
浄は非常に丁寧に編まれた物語であり、仮面ライダーの歴史の上に現れた唯一無二の魅力的なキャラクターです。
「形は様々だが、俺のことを考えてくれた時間こそが『愛』なんだ。」
あなたが浄のことを考えれば考えるほど、彼の物語は奥行きを増して広がっていきます。その思考に費やした時間こそが、浄の言う「愛」なのかもしれません。あなたは浄の、何を信じますか?