ジャムの瓶の底

イラストのことや漫画やアニメや特撮のことを書きます。自分用の備忘録です。

ドールという「自分のカケラ」―『ドルおじ』はドール沼に入る前と後で二度おいしい!

わたしが愛してやまない漫画の一つが、『ドルおじ #ドールに沼ったおじさんの話』です。そんな『ドルおじ』が2024年5月10日まで無料公開しています!

この機会に、ぜひとも皆さんに『ドルおじ』を読んでほしい…!という思いで記事を書きました。この漫画に初めて出会った頃、わたしはドールオーナーではありませんでした。ドール沼に入る前と後という二つの角度から、この漫画の面白さをお伝えできれば幸いです。

 

『ドルおじ』とは?

『ドルおじ』が辿った軌跡

『ドルおじ』は、漫画家のさとうはるみ先生が2022年8月に投稿したこちらの漫画から始まりました。

その後、『月刊コミックバンチにて連載がスタートし、『月刊コミックバンチ』がWEB漫画誌であるコミックバンチkai』へとリニューアルされることに伴い、今回無料公開されました。『コミックバンチkai』では単話で購入することができます!

現在ドルおじは2巻まで発売中です。星野くん推しの方には2巻のメロンブックスの特典が超オススメ!

ドルおじの1巻と2巻の写真。

Twitterで大きな注目を集めた『ドルおじ』とは、一体どのような物語なのでしょうか…!

人とドールが織りなす物語

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『ドルおじ』は、主人公である矛橋真澄スターレットと呼ばれるドールと出会うことから始まります。オークションサイトでスターレットヘッドと縁を結んだ真澄さんは、全くの初心者の状態でドールの世界に足を踏み入れます。バラバラになってしまったスターレットのパーツを探しながら、真澄さんは様々な人たちと出会い、彼らの心に変化をもたらしながら、自分自身も変わっていきます。人とドールが織りなす物語、という言葉が『ドルおじ』にはぴったりなのではないかと思います!

 

『ドルおじ』の魅力

人もドールも魅力たっぷり!

『ドルおじ』の魅力は、人もドールも出会えば思わず大好きになってしまうような魅力に溢れているところです!『ドルおじ』には様々なドールが登場します。スターレット40cm級のドール(ボークス社のドールで表すとMDD・SDMのサイズ)です。1/4と呼ばれるサイズのドールだけでなく、1/31/6、さらには1/12のドールまで登場します。かわいらしい少女のスターレットだけではなく、男の子にも女の子にも見えるペリメニさんや、人外の風貌をした美しい瑪唖ちゃんと単眼がかわいいみきぷるちゃんなど、様々な「かわいい」を体現するドールが鮮やかに描かれます!「こんなドールもいるんだ!」とドールの世界に導いてくれる作品です。

 

ヒューマンドラマでもあるドルおじは、登場人物も魅力的です。主人公の真澄さんは、最初は険しい表情のかっこいいおじさんなのですが、スターレットに出会ってからは、喜びも悲しみも素直に顔に出てしまう、とっても愛らしいおじさんへと変わっていきます。そんな真澄さんをドール沼へと導く人物が星野くん。わたしの最推しです!星野くんは惜しみない親切さで真澄さんをサポートする理想的な先輩ドールオーナーですが、一方である葛藤を抱えています。ドールオーナーの先輩は星野くんですが、人生の先輩は真澄さん…という対比が、物語にどんどん深みを与えていきます。

2巻から登場する、陽気なギャルの久保田さんとドールをカスタムする少女 愛生子ちゃん。二人の友情と、愛生子ちゃんを悲しみからそっと掬い上げる真澄さんの言葉は必見です!

さとうはるみ先生の圧倒的な作画力は、ドールの美しさと精巧さを豊かに伝えます。それでいて、登場人物が活き活きとした表情で動き回り、読みやすい構成で漫画の中に自然と読者を引き込むところが『ドルおじ』のすごいところです。美麗なのに、親近感が湧いてきて、物語の世界に没頭する。そんな不思議さがこの作品の素敵なところです。

 

ドールのハウツー本としてもおすすめ!

『ドルおじ』は、ドールに興味を持っている方やお迎えを考えている方など、初心者さんにもおすすめです。本編では、「どんなドールがいるの?」「どこでウィッグやドレスを買えばいいの?」という基本的な疑問から、「ウィッグのお手入れはどうすればいいの?」という痒いところに手が届くお悩みまで、真澄さんと一緒に解決していけます。同時に、単行本では本編の間に挟まれるコラムで基礎知識を学べます。意外と知らないドールのお迎え方法の一覧やドールショップでのマナーは必見です!

 

長髪のドールさんには、本編で紹介されたタングルティーザーがおすすめですよ~!

真澄さんのマイタングルの写真を見て、わたしもうちの子で作りました!

つかさくんとつかさくんの写真を使ったマイタングルの写真

ドール沼に入る前と後で二度おいしい!

ドールに詳しくない人でもどんどん読み進めたくなる面白さがある『ドルおじ』は、ドール沼に入る前と後で、異なる楽しみ方ができます!

ドール沼に入るは、真澄さんと一緒に初心者の気持ちで物語の世界を楽しめます。広く深いドールの世界に魅せられること間違いなしです。スターレットのパーツを探す旅にはワクワクします!そしてドールをお迎えしてからは、真澄さんが感じていた悩みと感動が「自分も同じ経験をした!」といっそう実感を持って感じられます。ドールに服を着せるときに「ごめんね…」と謝りながら着せる気持ち、そもそも自分がこんなに美しい子の服を選べるのだろうか…という不安…真澄さんと自分の思いが重なるとき、『ドルおじ』の物語が新たなリアリティを持って奥行きを増します。

ドールオーナー歴が長くなってくると、星野くんの気持ちにも近づいてきます。初心者にはあれこれ教えてあげたいし、違うおうちのあの子にはこんなお洋服が似合いそう…と想像しちゃう。けれども、「自分で選ぶ」ことがドール趣味においてとっても大事だからこそ、やっぱり見守るしかない!憧れの存在だった星野くんの気持ちがちょっとわかってくると、ますます面白いです。

 

ドールという「自分のカケラ」

最新話である18話では、「星野くん編」が完結しました。星野くん推しとして、そしてクリエイターになる道を諦めた一人の人間として、固唾を呑んで見守っていたこのエピソードが、優しくてあたたかく力強い終わり方を迎えてくれたことに心が震わされました。

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作中で、真澄さんにとってのスターレットは様々な言葉で形容されます。「散り散りになってしまった大切なモノ」、「見たこともない青白い光」、「天使」…。そして第10話では、「自分のカケラ」という言葉が出てきます。

ドールオーナーがドールに託す思いは様々です。ある人は憧れる自分像を託し、ある人は理想のパートナーを託し、ある人は愛する存在を託します。ドールとドールオーナーの結びつきは、人の心の繊細な祈りのようなものを含みます。ドールには、自分の「好き」と大切な「願い」がこめられています。

 

『ドルおじ』におけるドールの存在もまた、様々な願いがこめられています。真澄さんは自分にとって大切なものスターレットによって思い出し、時に教えられます。星野くんにとって、ペリメニさんは夢を諦め色彩を失った世界で唯一の生きる希望です。みきぷるちゃんは久保田さんにとって否定されたくない自分の「好き」であると同時に、愛生子ちゃんが表現したかった久保田さんの長所の象徴でもあります。瑪唖ちゃんは愛生子ちゃんにとって、「心の中に溜まっていくもやもや」から生まれた祈りです。

ドルおじのキャンパスボード。真澄さんとスターレットが写っている。

『ドルおじ』がドールと人だけでなく人と人の物語も描くのは、ドールこそが人から生み出され人へ向けられた願いを体現した存在だからかもしれません。この作品は人の心の繊細な部分を柔らかく、優しく描きます。さとうはるみ先生のドールと人間へ向けるまなざしと愛が、わたしはすごく好きです。

 

わたしがお迎えしたつかさくんもまた、わたしの「好き」と「願い」から生まれたドールです。この子に出会わせてくれた、そして今に至るまで導いてくれた『ドルおじ』が大好きです。家で、通勤電車で読むたびに、笑いと喜びと感動で胸がいっぱいになる作品です。これからも応援しています!

ドルおじのキャンパスボードとつかさくんが写っている写真。